富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第35回

5.「馬と少年」(7)

 牧師 藤掛順一


 アスランは次にアラビスに語りかけました。彼女の背中に傷を負わせたライオンはアスランだったのです。その傷は、彼女が家からぬけ出す時に眠り薬を飲ませた奴隷がそのために鞭打たれた傷と同じものだったのです。彼女は、自分がその娘に与えたのと同じ傷を受けなければならなかったのでした。
 アスランが去ってしばらくすると、アーケン国のコル王子という人がアラビスを訪ねて来ました。よく見るとそれはシャスタでした。シャスタはアーケン国のリューン王の子供で、コーリンとは双子の兄弟だったのです。二人が生まれてまもなく、ある予言者が、コル王子を見て、いつかこの子は滅びるまぎわのアーケン国を救うことになる、と予言しました。リューン王に恨みを抱いていたある男がそれを聞いて、そうはさせじとコル王子をさらって船で逃げたのです。王が追い付いた時には子供はある騎士に連れられてボートで逃げた後で行方不明でした。そのボートをアスランが押して、夜中に浜辺に出ていたシャスタの育ての父のもとに連れて行ったのです。こうしてコル王子はカロールメン国で育てられ、ラバダシによってまさにアーケン国が滅びるまぎわだったのを救うことになったのです。
 リューン王はコル(シャスタ)の旅の話を聞き、アラビスをアンバード城に迎えたいと申し出たのでした。アンバード城では、リューン王、エドマンド王、ルーシィ女王らがアラビスを歓迎しました。
 そこにはラバダシが捕えられていました。彼は自分のしたことを一向に反省せず、悪態をつき続けました。そこにアスランが現れ、彼をロバの姿に変えてしまいました。アスランが言うには、タシバーンのタシの神の神殿で、秋の大祭の時に、人々が見ている前で彼はもとの姿に戻るだろう、しかしその後ももし彼がタシバーンから15キロ以上離れたら、再びロバの姿に戻り、もうもとに戻ることはないというのです。ラバダシはカロールメンに送り返され、後に父の後をついで王となりましたが、その治世の間、タシバーンから離れて周囲の国を攻めることはできず、平和が続きました。
 コルとコーリンは双子でしたが、コルの方が先に生まれた兄でした。従って王位を継ぐのは彼だったのです。コルはコーリンに対してそのことを申し訳なく感じましたが、コーリンの方は「いつまでも王子でいられるんだ。王子さまっていうのは、いつもたのしくしていられるんだぞ」と喜びました。リューン王はそれを聞いてこう言いました。「コル、そなたのおとうとのいうとおり、いや、それ以上であるぞ。なぜならば、はげしい攻め戦さではいつも先頭に立ち、必死の逃げ戦さではいつもしんがりをつとめ、そして国内に飢きんがあれば(つまらぬことがつづく年にはよくあることじゃが)、国民のだれより貧しい食べものをたべながらも、だれよりりっぱな衣服を着てだれより大声で笑ってみせる、これが王というものなのじゃ。」ここに、ルイスの「王」についての考えが語られています。その土台にあるのは、「ノーブレス・オブリージュ」(高貴な身分を与えられている者は、社会に対してそれだけ大きな義務を負う)という考え方です。ナルニア国物語には王とか貴族がよく出てきますが、その人々に共通しているのはこのような思いです。それは人を差別する身分制度を容認している、とも言えるかもしれませんが、社会の中枢にいる者たちが、このような自己犠牲の精神で国のため、社会のために尽くす、という思いを持っていることが、その社会の健全さを支えるとも言えると思います。戦前の日本にはこのような考え方が生きている面があったように思いますが、戦後は、みんなが平等になり、自由になった反面、本当に義務を負い、自分を犠牲にしても社会のために尽くそうとする思いも薄くなってしまったように思います。人を生まれによって差別する身分制度はよくありませんが、より大きな力や機会を与えられている者は、より大きな義務と奉仕を負うべきだ、という感覚は大切なものだと思います。
 コルは後にアラビスと結婚し、リューン王の後を継いでアーケン国の立派な王となりました。
 
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