富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第2回

1.「ライオンと魔女」(1)

 牧師 藤掛順一



 さて今回から、「ナルニア国物語」の第一巻「ライオンと魔女」をとりあげていきたいと思います。この本の原題は直訳すれば「ライオンと魔女と衣装だんす」となります。「衣装だんす」と訳されているのは、この頃では日本語にもなってきている「ワードローブ」という言葉です。不思議な「衣装だんす」が、この世界とナルニアとの橋渡しの役をしているのです。そしてこの「衣装だんす」の由来は、後の巻で明らかにされていきます。
 物語は、ペベンシー家の四人のきょうだい、ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィが、第二次大戦の時、空襲を避けてロンドンから田舎の学者先生の屋敷に疎開したことから始まります。本文に「この前の戦争」とあり、最初に出た訳書にはそこに(第一次世界大戦)という説明がありました。これは第二次大戦の間違いで、一九八六年の改版以降は(第二次世界大戦)に直っています。私は改版前のを読んでいましたので、最近それに気付くまで、この物語の時代設定についての感覚を三十年程間違えていました。それでも特に違和感なく読めたのは、この世界とは全く別の世界へ行くという話だったからです。もっとも、歴史知識をきちんと整理すれば、「空襲を避けて疎開する」のは第二次大戦のことだとわかったはずなのですが…。ちなみにこの八六年の改版によって、このような間違いがいくつか修正されています。その中には、内容の深い理解に関る大事な文章の誤訳の訂正も含まれています。それについては、その場面に来たときに紹介したいと思います。
 さて四人のきょうだいが預けられた老学者先生は「カーク教授」というのですが、そのことは「ライオンと魔女」には出てきません。第三巻の「朝びらき丸東の海へ」の中に初めてその名前が示されています。そしてこの人が何者であるかは、さらに後の巻で明らかになるのです。
 この学者先生の大きな屋敷の中を探検している時に、末っ子のルーシィは大きな衣装だんすの中に入ってみました。するとその奥に、全く別の世界が広がっていたのです。ルーシィは自分が雪の降り積もる真夜中の森の中にいることに気付きました。そして前方に街灯の光が見えたのです。それは昔ロンドンの町にあったような、ランプ式の街灯でした。それが森の中にたった一つ灯っているのです。この街灯の由来も、後の巻で明らかになります。その街灯のところでルーシィは、腰から上は人間、足は山羊という、ギリシャ神話に出てくる「フォーン」に出会ったのです。
 タムナスという名のそのフォーンは、ルーシィに、あなたは「イブの娘」ですかと尋ねます。ナルニアでは、人間のことを、「アダムの息子、イブの娘」と呼ぶのです。ここに、聖書とのつながりが明確に打ち出されています。人間は、神に造られたアダムとイブ(私たちの聖書ではエバ)の子孫、即ち神に造られた者である、ということが暗示されているのです。しかしそれは暗示されているだけで、そんな解説はどこにもありません。またこのことは、ナルニアがこの世界とは全く別の世界でありながら、実はこの世界と深い関係があることを示していると言うこともできます。そのことの意味も全編を貫く大事なテーマです。
 さてタムナスはルーシィを家に招き、お茶とお菓子をふるまい、ナルニアの国のいろいろな話を聞かせ、笛を吹いて眠り込ませようとします。ルーシィが「もう帰らなければ」と言うとタムナスは「帰すわけにはいかない」と言います。そう言いつつ彼は泣き出し、自分が「白い魔女」に雇われて、人間の子供を見付けたら、眠らせて魔女に引き渡すように命令されていることを告白します。ナルニアは今、その「白い魔女」に支配されていて、そのために一年中冬が続き、しかしクリスマスは来ないのです。
 魔女の支配によって常に冬である、というところは、オスカー・ワイルドの「わがままな巨人」を連想させます。また、一年中冬なのにクリスマスが来ないというのも意味深いことです。クリスマスを、プレゼントをもらう楽しいお祭りとしてしか意識していない子供たちは、このことを、魔女が人々の喜びを奪っていることとして読むでしょう。しかし、イエス・キリストの誕生を祝うクリスマスが、この地上とは全く別の世界であるナルニアにあることはそもそもおかしいのです。クリスマスの本当の意味を知る者はそのことに気付きます。そしてそこには隠されたメッセージがあることがわかるのです。それは、魔女の、即ち罪の力が、救い主キリストの到来を祝う喜びを人々から奪っている、ということです。
 ところで魔女は何故人間の子供を引き渡させようとするのでしょうか。そのことは後の方で語られるのですが、ナルニアには昔からの言い伝えがあって、東の海辺にある「ケア・パラベル」の城の四つの王座に、アダムの息子が二人とイブの娘が二人着くと、魔女の支配は終わり、魔女の命も尽きると言われているのです。ナルニアはタムナスのようなフォーンとか、言葉をしゃべる動物たち、小人たち、木の精や水の精たちの国ですが、その王となるべき者は、「アダムの息子、イブの娘」、人間であるとされているのです。だから魔女は、人間の子供が現れることを警戒しているのです。タムナスは、人間を見るのはこれが初めてでした。そしてルーシィを魔女に引き渡すことなどとてもできないと思い、危険を犯して彼女を逃がしてくれました。あの街灯のところから、森を抜けていくと、衣装だんすを通って、イギリスのあの学者先生の家に戻ることができたのです。 お茶を呼ばれてずいぶん長い間ナルニアにいたはずなのに、戻ってきてみると、不思議なことにこちらの世界では全く時間が経っていませんでした。きょうだいたちは、ルーシィが別世界に行ってきたという話を信じません。あの衣装だんすにみんなで入ってみましたが、今度は、裏がわの板があるばかりで、何の変哲もない普通の衣装だんすでした。ナルニアに行く道は、このようにいつも開かれているわけではないのです。
 下の男の子エドマンドは意地悪な子でした。彼はこのことでルーシィをからかい、いじめました。ある日、屋敷の中でかくれんぼをしている時、ルーシィはもう一度あの衣装だんすに入ってみました。ナルニアのことは夢だったのだろうかと自分でもわからなくなっていたのです。それを見たエドマンドは、からかってやろうとして自分も衣装だんすに入りました。そして今度はエドマンドがナルニアに来てしまったのです。彼はそこで、「白い魔女」に出会いました。魔女は「ナルニアの女王」と名のり、エドマンドに魔法のプリンを食べさせ、彼らが男二人と女二人の四人きょうだいであること、ルーシィが前に来て、フォーンのタムナスと会ったことを聞きだしました。エドマンドが食べたプリンは魔法のプリンで、一度それを食べるとますます食べなくなり、そのために魔女の言いなりになってしまうというものでした。魔女はエドマンドに、兄弟たちを皆連れて自分の館に来るように言います。そうすればおまえを王子にし、ゆくゆくは王にしてやるとも言いました。魔女と別れた後、エドマンドはタムナスを訪ねていたルーシィと会い、二人でこちらの世界へ戻りました。ルーシィは、これでみんなに信じてもらえると喜びましたが、エドマンドは、兄と姉に、ルーシィとよその国ごっこをしていただけだ、と言います。魔女のとりこになってしまったエドマンドは、ルーシィをいじめていた自分が間違っていたことを認めるのもいやだったし、自分の会った女王のことを魔女と呼ぶルーシィが癪に障ったのです。兄に裏切られたルーシィはうちひしがれてしまいました。      
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