富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第1回

 牧師 藤掛順一



 「あなたの子供の頃の夢は何ですか」と問われたら、皆さんはどうお答えになるでしょうか。私はある所で、「ナルニアに行ってみたかった」と答えました。「ナルニア」というのは、「ナルニア国物語」という全七巻の児童文学の舞台となっている架空の国の名です。この物語は、何人かの子供たちが、魔法の力によって、この世界とは全く別な世界に行っていろいろな冒険をする、というお話なのですが、その別の世界で子供たちが、王や女王になったり、その国の危機を救ったり、またその国の誕生と終末に立ち会う、その国の名が「ナルニア」なのです。この「ナルニア国物語」が、私が小学校の高学年の頃に翻訳されて出版されました。私はそれを夢中になって、何度も何度も、暗記してしまうくらいに読みました。そして、ナルニアにあこがれ、自分もナルニアに行ってみたい、と思ったのです。
 これからこのホームページに、この「ナルニア国物語」についての文章を連載したいと思います。この物語の、またその各巻の内容の紹介と、私なりの解説をしていこうと思うのです。この原稿は、富山鹿島町教会の月報「こだま」に連載されているものです。それを多少手直ししながらこのホームページに載せていきたいと思っています。ところで、いくら子供の頃に読んで面白かったからと言って、教会のホームページにそれについての文章を載せる必要があるのか、と思われる方もあるかもしれません。実はこの「ナルニア国物語」は、著者のキリスト教信仰の一つの表現として書かれたものなのです。ですから随所に、というよりも全体の構想そのものに、キリスト教の教え、教理がもりこまれています。この物語を読むことによって、自然に、キリスト教信仰とはどのようなものであるか、を感じ取ることができるのです。そういう物語であるから、ここで取り上げて皆さんにご紹介しようというわけです。けれどもそのように申しますと、堅苦しい教訓話みたいなものか、と思って敬遠してしまう方があるかもしれません。決してそんなことはないのです。著者はそのような説明や教訓、あるいは説教のようなことを全く語りません。物語はまさに血湧き肉踊る冒険物語です。
 私自身小学生の時に、別にキリスト教信仰を読み取って読んでいたわけではなくて、物語そのものの魅力に引き込まれて夢中で読んだのです。そのように楽しく読んでいるうちに、この物語の中に主イエス・キリストがおられることに気づかされていったのです。それはこの物語の真の主人公であり、どの巻にも必ず登場する「アスラン」という「偉大なライオン」のことです。このアスランこそ主イエス・キリストなのですが、そんな解説はどこにもなされていません。物語には「キリスト」の「キ」の字も出ては来ないのです。だからこれは、キリスト教の教えなど一つも知らなくても十分面白く読める物語です。しかしキリスト教信仰をもって読む時に、そこに語られていることの真の、深い意味が響いてくるのです。この連載は、この物語に暗示的にあるいは象徴的に語られている信仰を明らかにし、それについて私のコメントを加えていくという形で進めたいと思っています。それによって、この物語が、大人にとっても十分意味深い、また面白いものであることをお伝えできればと願っています。
 さて、この「ナルニア国物語」を書いたのは、C・S・ルイスというイギリス人です。一八九八年に北アイルランドのベルファストで生まれ、オックスフォード大学で三十年間英文学を教え、ケンブリッジ大学で中世・ルネサンス英文学の主任教授を勤めました。亡くなったのは一九六三年です。このように学者としての生涯を送った人ですが、彼は同時に英国国教会の信徒として、信仰についてのいろいろな本を書いており、むしろそれらによって有名になったと言えます。それらの書物は、「C・S・ルイス宗教著作集」(全八巻、新教出版社)として翻訳出版されています。その第一巻は「悪魔の手紙」で、年上のベテラン悪魔が、新米の悪魔に、人間を誘惑して罪に陥れるための様々な手口を教える、という設定で書かれているものです。そこに逆説的に、人間が罪を犯していくとはどういうことであるのか、それに対して信仰を持って生きるとはどのようなことであるのかが、非常に深く、また想像力豊かに語られている、大変面白いものです。
 このルイスが、生涯で七冊だけ児童文学を書きました。それが「ナルニア国物語」です。一九五0年から五六年まで、毎年一冊ずつ出版され、全巻が完結した翌年、五七年に、前年度にイギリスで出た最も優れた児童文学として、カーネギー賞を受けました。日本では、岩波書店から、瀬田貞二の優れた翻訳で、一九六六年に全巻が翻訳出版されました。ちなみに私は原書が完結した五六年に生まれ、翻訳が出版された六六年に十歳だったわけで、まさに丁度私ぐらいの世代の子供たちが最初にこれを読んだのです。以来、今日まで版を重ねており、今でも書店の児童書コーナーに必ずと言ってよい程並んでいます。まだ読んだことのない方、お持ちでない方は、ぜひ買い求めてお読みになることを勧めたいですし、ご自分の子供さんやお孫さんにプレゼントするのに最適なものだと思います。対象年齢は「小学三、四年以上」となっていますから、小学校高学年であれば十分読むことができます。全七巻の日本語における表題は次の通りです。「ライオンと魔女」「カスピアン王子のつのぶえ」「朝びらき丸、東の海へ」「銀のいす」「馬と少年」「魔術師のおい」「さいごの戦い」。次回から、まず第一巻の「ライオンと魔女」をとりあげ、内容の紹介と解説をしていきたいと思います。乞うご期待。
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