旧約聖書創世記第6章以下の、「ノアの箱舟」の話を読みながら、聖書の人間理解についてお話ししています。
ノアが神様に命じられた通りに作った箱舟が完成し、彼が家族と共に、また全ての動物たちの雄と雌一つがいづつと共ににその中に入った時、大洪水が起こりました。7章12節にはこうあります。
「この日、大いなる深淵の源がことごとく裂け、天の窓が開かれた」
この表現は天地創造の物語と対応しています。創世記第1章のはじめのところを読むと、天地創造の始めには、この世界は混沌の深淵であったとあります。その混沌を表しているのは水です。水が世界を覆っていたのです。そこに、神様は、大空を造り、水を、大空の上の水と大空の下の水とに分けられたと1章6、7節にあります。水と水との間に、私たちの生活しているこの世界がある、という理解です。それは、空は水のように青く、そこから雨が落ちてくる、そして地上には海がある、ということから生じた素朴な感覚でしょう。そしてそれは、神様が、混沌の力を制御しておられることによって、人間の生きることができる、秩序ある世界が守られている、ということとして捉えられているのです。「大いなる深淵の源がことごとく裂け、天の窓が開かれた」というのは、その上と下の水に対する神様の制御が取り払われた、ということです。天の窓が開かれたというのは、上の水が地上に落ちてきたということですし、大いなる深淵の源が裂けたというのは、下の水が制御を失って溢れてきたということです。つまりこの洪水は、単に雨が沢山降って川が溢れて洪水になった、というようなことではないのです。神様が人間の生きるこの世界を混沌の力から守っておられた、その守りが取り除かれ、神様の守りと支えが失われる時、この世界は混沌に飲み込まれるのです。ノアの箱舟は、その混沌の海に浮かぶただ一つの秩序ある世界、神の守りと導きがそこにだけはある所です。つまりノアたちは、箱舟に乗ったから助かったのではありません。神様の守りと導きの中に置かれたから、混沌の力、無秩序の荒波に飲み込まれずにすんだのです。
牧師 藤 掛 順 一
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