富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第26回

4.「銀のいす」(6)

 牧師 藤掛順一


 「殿下」と呼ばれている若者は、自分が女王(あの緑の衣の女のことを彼はそう呼んでいます)によって、悪い魔法から助け出されてここに暮らしていること、女王がまもなく地上のある国を征服して自分をそこの王としてくれること、その時には自分にかけられている魔法もすっかりとけ、女王は自分と結婚してくれることになっていることを語りました。夕食が終ると彼は、一日に一度だけ、自分にかけられている魔法が働き出す時が迫ったと言います。そのひと時には、彼は手足を椅子に縛りつけられていなければなりません。そうしないと、暴れ出して何をするかわからないからです。もっとも、彼自身はその時のことを全然覚えてはいないのですが…。ユースチスたちは彼の「発作」の間、地下人の目を避けて隣室に隠れていることになりました。地下人たちが彼を縛りつけて去ったのをみはからって、彼らは若者のところへ行ってみました。彼は「銀のいす」に縛りつけられていました。彼は、発作が起って自分が何を言っても、決してこの縄をほどいてはいけないと言いました。三人は、どんなことがあっても決して縄をほどかないと互いに誓い合いました。
 やがて発作が始まりました。ひと時のうめき苦しみの後、若者は彼らの姿を見て言いました。「さ、早く!いまは、正気ですよ。夜になると、正気にもどるんです。この魔法のかかったいすからのがれることさえできたら、ずっと正気のままでいられるでしょう。ふたたび、ちゃんとした人間になれるでしょう。けれども、夜ごとにやつらがしばりつける。そして夜ごとにそのチャンスがなくなってしまうのです。でも、あなたがたは、敵ではない。わたしは、あなたがたのとらわれ人ではない。早く!このひもを切ってください。」三人は、心を固くして彼の言葉を聞きながそうとしました。彼は哀願したり脅したり、様々なことを言って縄を切ってくれるように頼みました。そしてついに、こう言ったのです。
「ひらにねがいあげる。どうか自由にしていただきたい。あらゆる心のおののきと愛にかけて、天上のあかるい空にかけて、偉大なるライオン、アスランそのひとにかけて、わたしはねがう」
 「ああ!」三人の旅人たちはいっせいに、ふかでをおったような大声をあげました。「あのしるべだ!」と泥足にがえもんがいいました。「これは、あのしるべのことばだ」とスクラブは、もうすこし用心ぶかくいいなおしました。「ああ、どうしたらいいでしょう」とジルがいいました。
 それは、まことにおそろしい問題でした。…三人がそれ(アスランの名によって願う彼の言葉)に耳をかさないで通すとしたら、あのしるべのことばをおぼえたことが、なんになるでしょう?それにしてもアスランは、じぶんの名をよんでたのむ者なら―たとえ気狂いでも―いましめをといてやれというつもりでおられたのでしょうか?それともこれは、ただの偶然にすぎないのでしょうか?いやひょっとして、地下の国の女王がしるべのことをとっくに知っていて、三人をわなにはめこむために、騎士にアスランの名だけをおぼえさせておいたのではないでしょうか?けれども、これがほんとのしるべそのものだとしたら?…三人はもう三つもやりそこなってきました。四つめはどうしてもやりそこなってはなりません。「ああ、わたしたちにそれさえわかれば!」とジル。「もうわかっていると思いますよ。」とにがえもん。「ではあんたは、この人をほどいてあげれば、万事がうまくいくと思ってるんですか?」とスクラブ。「そこまではわかりません。」とにがえもん。「そうでしょ?アスランは、どうなっていくかということは、ポールにお話しになりませんもの。あのかたはただ、なすべきことを教えられたのでさ。この者がときはなされれば、あたしらの死をまねくかもしれませんよ。けれども、だからといって、あのしるべにしたがわないですましは、できませんさ。」
 この一言で彼らは覚悟を決めて、若者の縄を切りました。自由になったとたん、彼はテーブルの上の剣を取って、銀のいすにふりおろし、それをばらばらに切りくずし「くたばれ、このおぞましい魔法のからくりめ。そちの女主人がべつのいけにえにそちを使うことのないように。」と言いました。それから彼は三人をふりかえりました。先ほどまで彼の顔に感じられたどこかまともでないところはすっかり消え去っていました。「や、なんと!」と若者は、泥足にがえもんにむきあって、叫びました。「わたしはいま、目の前に沼人を見ておるのであろうか?まことの心正しいナルニアの生きた沼人に?」「ああ、それではあなたは、ナルニアのことをごぞんじだったのではありませんか?」とジル。「のろいのまじないにかかっている時は、それまで忘れていたのですか?」と騎士がたずねました。「ともあれ、それもこれも、とりつかれた苦しみも一切、いまは終わりました。みなさんは、わたしがナルニアを知っていることをよく信じていただけるでしょうが、じつは、わたしは、ナルニアの王子リリアンです。カスピアン大王こそ、わたしの父なのですよ。」

 こうして彼らは、捜し求めていたリリアン王子を見つけることができたのです。それは、アスランのしるべの言葉に、命をかけて従ったことの結果でした。疑えばいくらでも疑い得る状況の中で、しるべの言葉を文字通りに実行した彼らの決断(信仰)が、王子を悪い魔法から解き放ったのです。
      
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