富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第38回

6.「魔術師のおい」(3)

 牧師 藤掛順一


 ディゴリーが目覚めさせたジェイディスは、ディゴリーのおじが、魔法で自分の美しさを見、自分を招くためにディゴリーたちをこの世界に遣わしたのだと思っていました。そして「さあ、そのほうたちの世界へ参ろう」と言い出しました。ディゴリーがぎょっとして、自分たちの世界はあなたが見る値打ちなんかありませんと言うと、彼女は、「わらわがおさめれば、たちまち見る値打ちのあるものになろうぞ」と言います。あの世界の人々があなたに治めさせるはずはありませんと言うと、彼女はあざけるように「わらわの美しさと、わらわの魔法をもってして、一年以内にそのほうたちの世界をことごとくわらわが足もとに従えることができないと思うておるのか」と言います。子どもたちがなかなか言う通りにしないのでジェイディスは怒り、ポリーの手を離してその髪の毛をつかみました。チャンスとばかりに彼らは左のポケットの中の黄色い指輪を触りました。チャーンの世界はかき消え、二人はあの「世界の間の林」に戻りました。ところが、ポリーの髪の毛をつかんでいたジェイディスも一緒に来てしまったのです。あの指輪は、指輪にふれた人に触れている人にも効果を及ぼすのでした。
 この林に来ると、ジェイディスの様子はさっきとは全く変わってしまいました。彼女は苦しそうによろめき、おびえていました。二人が早速緑の指輪にとりかえてもとの世界に帰る池に飛び込もうとすると彼女は「わらわをいっしょにつれていっておくれ。まさか、こんなおそろしいところにおいていくつもりではあるまいな。ここにいたら死んでしまうわ」と哀れに言うのです。ディゴリーの心に一瞬、かわいそうに思う気持ちが生まれました。その一瞬のすきに、ディゴリーはジェイディスに耳をつかまれ、三人そろってもとの世界に戻ることになってしまったのです。
 彼らはアンドルーおじの書斎に戻りました。この世界に来たとたんに、ジェイディスに力が戻りました。彼女は自分を呼びだした張本人がアンドルーであると知ると、チャーンの都でディゴリーにしたように、彼の顔を子細に調べ、「そちの正体はよくわかった。きまりと本だけが頼りの、つまらん受け売り魔術師じゃ。そちの血にも心にも、本物の魔法などありはせぬな。そちのようなえせ魔術師は、わらわのいた世界では、千年も前にあとをたってしまったわ。しかしここでは、そちをわらわの召使いにしてとらせよう」と言いました。そしてアンドルーに、「今すぐわらわのために、戦車か空とぶじゅうたん、さては調教ずみの竜、さもなくばなんでもよい、この国の王族貴族の用いるものをしたててまいれ。そのあとでわらわの身分にふさわしい衣装や宝石、どれいどもを手にいれることのできる場所へ、わらわを案内せよ。あす、わらわは、この世界の征服をはじめるぞ」と命じました。アンドルーはあわてふためいて、馬車を用意しに出ていきました。
 このあたりからルイスは彼女のことを「魔女」と呼び始めます。そうです。ディゴリーは魔女を目覚めさせ、この世界に連れてきてしまったのです。書斎に魔女と三人で取り残されたディゴリーとポリーはびくびくしていましたが、魔女は彼らには見向きもしません。ルイスはこのように説明しています。「今、魔女は、子どもたちとだけ残ったのに、どちらにも目もくれません。これもいかにも魔女らしいところです。チャーンでは、魔女は(最後の最後まで)ポリーを無視しました。というのも、魔女が利用したかったのはディゴリーだったからです。ところが今はアンドルーおじがいますから、魔女はディゴリーには目をくれないのです。たいていの魔女はみんなこんなじゃないかと、わたしは思います。この連中は、じぶんたちの役に立たない物とか人には関心をもたないのです。おそろしく実際的な連中なのです」これは「悪魔」の本質を言い当てた炯眼です。悪魔は、実際的です。自分の役に立ち、また効果のあることにしか思いを向けません。「人のために」とか「無駄なことをする」悪魔などいないのです。ですから私たちが、自分のことしか考えず、無駄なことを嫌い、役に立つことしかしないとしたら、それは「悪魔的」になっているということです。また、ルイスはそんな説明は一切していませんが、これが、あの「世界の間の林」で魔女が弱り、脅えた理由でもあります。「世界」でない所、「実際的なこと」が何もない所では、悪魔は生きられないのです。悪魔の存在と活動の場はあくまでも「この世」なのです。このような「悪魔」についての深い省察が、ルイスの他の著書「悪魔の手紙」に実を結んでいます。年配の熟練した悪魔が、若いかけ出しの悪魔に、人間を誘惑し自分たちの陣営にひきずり込む手立てを教えるという設定のこの本は、悪魔の、そしてそれは即ち人間の、本質を鋭くえぐり出している傑作です。「ナルニア国ものがたり」と並んでこちらもお読みになることをお勧めします。
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