富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第24回

4.「銀のいす」(4)

 牧師 藤掛順一


 一行のゆくてに、いよいよハルファンの灯が見えてきました。しかし天気は吹雪になり、足元もおぼつかなくなり、周りもよく見えなくなりました。そんな中、彼ら(ユースチスとジル)は、ハルファンに着くことだけを考えて必死に丘を登っていきました。その丘は、自然に出来たものとは思えない、四角四面に切り出された岩から出来ていました。丘の上はまっ平らでした。右手には、工場の煙突のようなものがおぼろげに見え、左手には垂直でまっすぐな壁のようなものがありました。それらは皆、よく考えれば、人工的なものであることがわかったはずでしたが、彼らは、ハルファンにたどりつくことだけを考えていたために、おぼろげに見たものの意味を考えてみることをしませんでした。そのうちに、ジルが大きな溝の中に落ちました。幅一メートルほどの溝がまっすぐに掘られていました。その溝は少しいくと右に直角に曲がっており、そこから数歩いくと右へ曲がる道とまっすぐの道に分かれており、まっすぐに数歩いくと今度は右に折れていました。その時、泥足にがえもんが言いました。
「ねえポール(ジルの名字)、あのしるべのことばは、たしかにおぼえていますかね?いま、あたしらがしたがうべきあの教えは、なんでしたかね?」「まあどうでしょう!しるべのことばなんて、うるさいわねえ」とポール。「アスランの名をいう人がいて、そのことでなんだかいってたわねえ。でもわたし、こんなところでおさらいをしてみせる気は、ぜったいありませんからね。」
 おぼえておいででしょうが、ジルは、その順序をまちがってしまいました。それはジルが、まい晩あのことばをとなえることをやめたせいでした。ジルとて、めんどうでもじっと考えれば、ほんとうはまだ知っていたのです。でもジルはもはや、ちょっと注意を集めれば、考えることなくすらすらと、正しい順序であのことばをくりのべることができるほど、その宿題を「ものにして」はいませんでした。にがえもんの質問がジルをなやませたのは、ジルの心のおくの方で、じぶんではとっくにおぼえておくべきことと思っているくせに、そこまでうまくライオンの教えをおぼえておかなかったじぶん自身をなやみのたねとしていたためなのです。このなやみが、ひどい寒さとつかれでみじめな思いをしているところにくわわって、つい「しるべのことばなんて、うるさいわね」といわせたのです。ジルはほんとうは、そんなつもりではなかったのでしょう。
 「ああ、それは、そのつぎの箇条でしょう?」とにがえもん。「ほんとにきちんとおぼえてるんですかね?まぜこぜにしてるんじゃないでしょうね。あたしには、この丘、あたしらの立っている平らなところは、立ちどまって、ゆっくりしらべてみるねうちがあるように思われますがね。あんたは気がついたでしょうか、あの−」「何をいってんだ!」とスクラブ。「いまは、立ちどまって景色をほめてる時か?ええい、とにかく、あそこへいきつくんだ。」

 こうしてユースチスとジルは、泥足にがえもんの忠告を聞かずに、ひたすらハルファンへと向かったのです。ようやくハルファンに到着すると、そこの巨人の王と王妃は彼らを歓迎してくれました。しかし翌朝、窓から外を見た彼らは衝撃を受けました。彼らが通って来たあの丘が眼下に見えましたが、そこは、昔の巨人族の都のあとだったのです。そして、その丘の上には「ワガ下ヲミヨ」という文字が掘られているのが見えました。ジルが落ちた溝はその文字の「ヨ」だったのです。(原文では「UNDER ME」の「E」の字となっています。ここの翻訳も見事です)。つまり彼らは、アスランのしるべのことばの第二と第三「むかしの巨人族の都のあとに行き、そこで石の上の文字を見つけ、それに従う」ことをやりそこなってしまったのです。四つのしるべの内の、三つまでも、彼らはやりそこなってしまったのでした。 
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