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「ナルニア国物語」について 第54回7.「さいごの戦い」(7)牧師 藤掛順一
チリアン王たちは、セントールの星うらべがケア・パラベルから連れて来るはずの援軍とまず落ち合うことにします。うまや丘に行ってライオンの皮を被ったトマドイをナルニア人たちに見せても、あの小人たちと同じ反応を示すだけかもしれないと危惧されたからです。タシが向ったうまや丘には近づきたくない、という思いもありました。 道々、ナルニアが平和でしあわせだった時代のいろいろな話をたから石から聞いたジルはこう言います。「わたしたちの世界は、いつかは、終わりになるでしょう。でもきっとここは、ナルニアは終わらないわね。ああ、たから石さん―ナルニアがいつまでもつづいたら、なんてすてきだろうと思わないこと?」。するとたから石はこう言うのです。「いえ、姫よ。あらゆる世界は、終わりになりますよ。アスランご自身の世界はべつですが…」。アスラン自身の世界、つまり神の国は別として、あらゆる世界には必ず終りが来る、それが、聖書の教える基本的な世界観です。この世界には、始まりがあり、終わりがあるのです。 その時、チリアンの家臣の一人であるワシの「遠見ぬし」が彼らのところに舞い降りてきました。そして二つの悲しい知らせを告げます。第一は、ケア・パラベルが海から攻め込んだカロールメンの軍勢に占領されたこと。第二は、星うらべがカロールメンの矢を受けて死んだことです。遠見ぬしは星うらべのいまわのきわに立会い、王へのことづてを受けました。「あらゆる世界は、かならず終るもの。して気高き死は、なん人もあがなうことのできる宝であることを、心にとどめたまえ」というのです。 「そうか。」と王は、長い沈黙のあとで、ようやくいいました。「ではナルニアは、もはや終わりなのだ。」 この知らせを聞いたたから石はこう言います。「いまやわれら七人に残されたことといえば、うまや丘にとってかえし、まことのことをはっきり申したてて、アスランのくだされた冒険にはいるほかございません。またかりに、大いなるふしぎに助けられて、毛ザルにつきしたがう三十人のカロールメン兵どもをうちはたしたならば、さらにとってかえして、ケア・パラベルからただちに進撃してくるカロールメンの大軍と一戦まじえて、討ち死にいたしましょう」。一同はそのような覚悟を決め、うまや丘に戻り、昼間、周囲に人のいないうちにうまやの後ろに身を潜めました。 夜になり、うまやの前に焚き火がたかれ、ナルニア人が集まって集会が始まりました。もはや事をとりしきっているのはカロールメンの隊長リシダと、ネコのハジカミで、ヨコシマはただ教えられたことを語っているだけでした。彼は、「悪いロバがライオンの皮を被ってアスランのふりをして森をぶらついていた。アスラン(今ではタシと一緒にしてタシランと呼ばれていました)はそのことでとても怒って、もう出てこられない」と言いました。なんということでしょう。これでもう、ライオンの皮を被ったトマドイをナルニア人たちに見せることの意味がなくなったと同時に、アスランが姿を見せないことの理由も立つのです。この悪がしこい話はハジカミが考えたものに違いありません。 すると、ナルニア人の中から声があがりました。「おれたちは、やつがやつの大事なアスランをもはやもちださないわけを知ってるぞ。そのわけをいってやろうか。サルが、あれをもってないからよ。そもそものはじめからあいつは、背中にライオンの皮をまとった年よりのロバのほかに、もってなかったのよ。そしていま、それまでなくしたもんだから、どうしていいかわからないのよ」。それはあの小人のリーダー、グリフルでした。前夜、ライオンの皮を被ったトマドイを見た彼らは、ヨコシマの嘘っぱちを知っており、それを暴こうとしているのです。彼らは、チリアン王にも従うつもりはありませんが、ヨコシマやカロールメン人の言うなりになるつもりもないのです。さてこの集会はどのように進展していくのでしょうか。 |
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