富山鹿島町教会

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「ナルニア国物語」について 第30回

5.「馬と少年」(2)

 牧師 藤掛順一


 タシバーンの街頭で、シャスタたちは、ナルニアの貴族たちの一行に出会いました。シャスタは群衆の最前列でその一行を見ることになりました。ところが、一行の中心にいたナルニアの王エドマンドが、シャスタを見ると「や、ここにいた!ぬけ出した者がいたぞ」と言い、シャスタを群衆の中から引きだし、連れて行ってしまったのです。シャスタは「人違いです」と言おうとしましたが、この多くの人々の前で自分たちのことを説明しはじめたら、逃亡の身であることが知れ渡ってしまうので、何も言うことができませんでした。シャスタは仲間たちに一言も言うひまもなく、ナルニア貴族の一行に連れ去られてしまったのです。
 エドマンド王は、シャスタに「王子よ」と語りかけ、どこへ行っていたのか、着ていたものはどうしたのか、と問いただしましたが、シャスタは何も答えることができませんでした。宿舎に着くと、そこにはスーザン女王がおり、シャスタに「コーリン」と呼びかけ、どんなに心配していたかを語るのでした。彼らの話から、シャスタは、自分が、ナルニアの南にあるアーケン国という山国の王子コーリンと間違えられていることが分かりました。ナルニアの人びとは、シャスタが何も答えないのを不思議に思いましたが、きっと太陽の熱によって正気を失っているのだ、まず休ませよう、ということになり、冷たいものを食べさせ、横にならせました。そしてシャスタはそこで、エドマンド王、スーザン女王、そしてナルニアからカロールメンに客として来ている人々の話を聞くことになったのです。
 スーザン女王とエドマンド王とその一行(その中に、アーケン国のコーリン王子も含まれていたのです)がこのタシバーンに客として来ているのは、カロールメンの王子ラバダシがスーザン女王に求婚するためでした。しかしスーザンは彼と結婚する気はありません。ラバダシは高慢で残忍でわがままな暴君だったのです。しかし今はっきりとその求婚を断ると、彼らはカロールメンに捕えられ、スーザンが求婚を受けるまでは帰さないと脅されることになりそうな気配です。戦いになれば、多勢に無勢、彼らは殺され、スーザンは無理やりに妻にされてしまうでしょう。そこで彼らはタシバーンを逃げ出す計画を立てました。それは、明日の晩ナルニア人の船で大宴会を催すことにして、そこにラバダシ王子を招待する。招待状にはスーザンが求婚を受けるかもしれないと思わせるような言い方をして王子を安心させる。そして宴会の準備のためと称して船に乗り込み、今夜のうちに出港して逃げ出す、というものでした。またその話の中に、タシバーンの北に広がる砂漠を越えるためにはどのような道がよいか、ということもありました。シャスタはこれらの相談の一部始終を聞いてしまったのです。
 シャスタの頭には、ナルニアの人たちに自分のことを全て打ち明けて助けを求めようという思いは浮かびませんでした。自分がコーリン王子でないことがわかったら、秘密を聞いてしまった今は、殺されてしまうに違いない、また、カロールメン人であるアラビスも奴隷に売られるか、父親のもとに送り帰されてしまうに違いないと思ったのです。 「そうです。シャスタは、しんに気高い、自由な身に生まれた人たちが、どうふるまうか、まったく知らなかったのです。」
 そのうちにシャスタは眠ってしまいました。物音で目が覚めると、窓から一人の少年が入ってきました。それはコーリン王子でした。彼は昨日、一行を抜け出し、スーザン女王の悪口を言っていた少年と喧嘩をし、一晩外で過ごして今戻ってきたのです。コーリンはそのように喧嘩早い元気のいい少年でした。そして、コーリンとシャスタは生きうつしと言える程そっくりだったのです。それで、エドマンド王が間違えたのでした。このあたりは、マーク・トウェインの「王子と乞食」からヒントを得たような感じです。シャスタは、コーリンと入れ替わって、窓から外へ出ました。そしてタシバーンの町の北側の門を出て、かねてもし離ればなれになってしまったら落ちあうことに決めてあった、昔の王たちの墓へ行きました。そこは、人食い鬼が出るという伝説があるので、カロールメンの人々が恐れて寄り付かないので、隠れるのにはよい所だったのです。シャスタはその墓で一夜を過ごすことになります。シャスタだって鬼は怖いのです。その彼を慰めるように、一匹のネコが現れました。夜中、砂漠の方からジャッカルの吼える声がしました。声はだんだん近づいてきます。気が付くと、ネコはいなくなっていました。ジャッカルがいよいよ近づいてきた時、一頭のライオンが現れ、ジャッカルを追い払いました。そのライオンは振り返り、シャスタの方に近づいてきます。もうだめだ、と観念した時、それはあのネコだったのです。シャスタは夢を見ていたのだと思いました。夜が明けてシャスタが目を覚ますと、ネコはもういませんでした。シャスタはその日一日、アラビスたちを待ちました。そして夕方になって、ようやく彼らと再会することができたのです。アラビスたちはそれまでの間、別の、手に汗握る冒険をしていたのでした。そして、ナルニアとアーケン国の運命に関わる重大な秘密を知ったのです。そのことについては次回をお楽しみに。
 
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